適正な採用人数の決め方は?
スケジューリングをはじめとして、募集方法・選考基準・選考方法の策定・入社後の育成など、募集から入社後のプロセスすべてを含めた活動のことを、採用活動といいます。
採用活動の方針を定めていくにあたって重要となる項目が、採用人数です。
しかし人事担当者の中には、「自社にとって本当に必要な人材は何人なのか」と、適正な採用人数に関する悩みがある方もいらっしゃるかもしれません。
要員計画の概要とともに、適正な採用人数の決め方について解説します。
「要員計画」の作成が重要!
要員計画とは、事業計画を進めるうえで、企業が策定すべきものです。
必要な人材を採用・配置したり、不要な人材を整理したりします。
新たに何人の人材を要するのかが明確になるので、採用活動に役立ちます。
またどういった能力や適性がある人材を採用すれば良いのかもわかるため、自社にとって本当に必要な人材を採用することが可能です。
この要員計画が、採用活動の成功を左右するといっても過言ではありません。
IT技術の発達やグローバル化など、ビジネスを取り巻く環境は年々大きく変わってきています。
さらに国内では、労働人口の減少といった課題もあり、優秀な人材を確保するのが難しくなってきています。
そういった背景からも、要員計画を作成して、自社に本当に必要な人材について洗い出すことが必須です。
「採用計画」や「人員計画」との違い
「採用計画」とは、いつまでに、どんな人材を、何人採用するのかを決めるものです。
さらに選考基準や方法など、具体的なプロセスの設計も含みます。
採用計画を考えるときに必要なのが、要員計画です。
要員計画で自社にとって適性な採用人数を策定しておくことで、採用計画がより具体的に、スムーズに進められます。
なお採用計画は、あくまで「人員計画」の1つという位置づけです。
人員計画では、事業計画の遂行にあたって必要な要件を定めて、人材の配属先を決めるのが基本です。
要員計画によって各部署に配置すべき人数を設定し、人員計画で配置を実行します。
要員計画があるからこそ、採用計画や人員計画が効率的に進められるということです。
要員計画の作り方
ここでは、どのような流れで要員計画を作成するのかについて解説します。
基本的なステップとしては、「現状把握→採用人数の算出」です。
自社の現状について確認しておくべき項目には、今の人員構成や、事業計画とそれにともなう採用課題、採用ニーズなどがあげられます。
それをふまえて、自社に必要な人数を算出していくと効率的です。
算出方法には「トップダウン方式」と「ボトムアップ方式」があり、この2つをうまく活用できるか否かがポイントとなります。
現状の把握
自社の現状について洗い出し、把握する必要があります。
確認すべき項目は、以下の通りです。
・現在どのような人員構成になっているのか
・事業計画を遂行するのに不可欠な人材とは
・採用活動における課題が何か
・各部署においてどのような人材が求められているか
年齢・雇用形態・職種などの要素から、自社の人員構成がどうなっているのか確認します。
そのうえで、これから必要な人員がどのようなものか考える必要があるため、事業計画の確認も不可欠です。
事業計画の遂行を目指す中で課題となるもの、各部署で必要なものは何かなど、調査を進めていきます。
短期的な採用ニーズ
「今」の自社の現状に必要な採用ニーズをもとにして、短期的な要員計画を作成します。
たとえば現場の声をふまえて、一時的に契約社員を増やすなどです。
以下のような理由があげられます。
・社員が退職したときの欠員補充
・繁忙期のための増員
・新規事業の立ち上げにともなう増員
事業計画をもとに、先を見据えて中長期的な採用ニーズを理解し、採用に関わる事項を検討するのが理想です。
しかし実際には、そう計画通りにはいかないでしょう。
先述したような理由から、予定外に増員が必要になるケースがあるためです。
そのため、事業計画を円滑に進めていくためには、中長期的な計画だけでなく、現状として1年ごとに短期的な採用ニーズを把握する必要があります。
中・長期的な採用ニーズ
経営側の意見をもとにして、新卒・既卒の正社員を採用するなどが、中・長期的な採用ニーズを取り入れた作成方法です。
事業計画を確実に遂行するため、要員計画は必須といえます。
将来的な企業の目標から逆算して、採用人数を検討します。
次のようなステップで進めていくと良いでしょう。
①事業計画、将来の目標を明確にする
②人員構成のシミュレーションをすう(3年後・5年後・10年後など)
③各人員の生産力や離職率を考慮した人員構成の想定をする
④事業計画・経営戦略の実現に向けた人員構成を考える
3、5、10年後に必要となるであろう人数や人材像に関して、部署ごとに構想していきます。
大企業ほど部署の数や採用人数は多くないとはいえ、中小企業やベンチャー企業でも中長期的な視点は欠かせません。
必要な人員の算出
現状把握から採用人数を算出するのが基本です。
自社の現状とともに、短期的、中長期的な採用ニーズを確認し、具体的な数値を考えていきましょう。
ここでは、必要な人員を算出する際の手法について説明します。
自社にとって必要な人員の数を割り出す具体的な方法としては、「トップダウン方式」と「ボトムアップ方式」とがあります。
前者はマクロ的、後者はミクロ的視点で考えるのが特徴です。
これら2種類の手法を取り入れて、その状況に応じて活用するのがポイントです。
マクロ的な「トップダウン方式」
「マクロ」の視点で考えるため、「企業全体で」必要な人数を考えるものです。
企業における、売上高や損益分岐点、人件費率、労働分配率や付加価値などをもとに人件費を割り出し、そこから採用人数を検討します。
主に企業の財政状況から人員数を算出するのが特徴です。
自社全体で要する人数を軸にして、各部署や職種に人員配置していきます。
自社の経営状況に合わせた採用が実現する点をメリットとしてあげられるでしょう。
しかしその一方、トップダウン方式だけで進めてしまうと現場で人手不足が生じるなど、業務遂行が難しくなる可能性も考えられます。
経営状態がきびしいとき、改善を試みたいときには、トップダウン方式で算出し、ボトムアップ方式により調整するのが有効です。
ミクロ的な「ボトムアップ方式」
現場の声や実情を取り入れて検討するのが、ボトムアップ方式です。
「積み上げ方式」と称されることもあり、現場ベースになっているのが特徴です。
現場の業務量や業務内容や、現状、現場での意見をもとにして、必要な人数を割り出しましょう。
それを積み上げながら、全体で必要な人数を考えていきます。
実際に業務遂行するうえで必要な人員を算出できるのがメリットとしてあります。
ただしボトムアップ方式のみ採用すると、必要数が膨れ上がり、人件費や採用にかかる費用が高くなりすぎるといったデメリットがあるのです。
経営状態で課題を抱えていない場合には、ボトムアップ方式により要員を定め、トップダウン方式で確認をするといった順番にすると良いでしょう。
要員計画を作成する際の注意点
採用活動をするにあたって欠かせないのが採用人数の設定です。
人数設定に加えて、自社にとって必要な人材を確保するために使えるのが、要員計画です。
基本的な流れは、現状把握をしたうえで、必要な人数を算出します。
ここまでは具体的な手法について解説してきましたが、そのほか、要員計画を作成する際に注意しておきたいことについても紹介したいと思います。
より精度の高い要員計画に仕上げるために、いくつかのポイントを押さえておきましょう。
事業計画・経営戦略をもとに検討する
マクロ視点のトップダウン方式を活用する際にも重要な事項となりますが、自社の事業計画や経営戦略をもとに、要員計画を検討することは欠かせません。
採用活動を成功させることの最終的な目標は、企業が掲げる目標を達成することにあります。
それを実現させるために、事業計画や経営戦略を練るのが基本です。
そのため要員計画を作成する際は、それらをふまえて実行する必要があります。
事業計画を確認したうえで、採用における課題を洗い出しましょう。
事業計画を遂行するための、各部署での人員配置の現状や人数の過不足、求める人材像などを明らかにするのがポイントです。
企業全体を見たときに必要な人材や人数がいかほどなのか、検討しましょう。
採用ターゲットを明確にする
自社が求める人材とはどのようなものか、明確にしましょう。
要員計画をもとに、ただ人員数を集めれば良いわけではありません。
採用活動を成功に導くためには、自社が理想とする人材像に適したターゲットを見つけて、入社してもらうことが必要です。
それを達成するにあたっては、採用ターゲットを明らかにして、人材像を確立させ、共有することが欠かせません。
ターゲットを定めておくと、自社ニーズの確認や、最適な母集団の形成、募集方法の選定に有効です。
また自社にとって本当に必要な人材に対して、適切にアプローチできるので、入社後のミスマッチを防ぐことにもつながります。
それはさらに、社員の定着率向上や、離職率低下にも貢献するでしょう。
現場へのヒアリングを行う
ミクロ視点のボトムアップ方式を活用する際にも必要なのが、現場へのヒアリングです。
現場の実状に沿った採用を行うためには必須といえます。
具体的には、アンケートを集めたり直接ヒアリングしたりといった手法を用います。
現場ごとの要員ニーズを収集していくときには、次のような項目について、ニーズの有無を確認すると良いでしょう。
・欠員補充に関する要員ニーズ
・繁忙期対策としての要員ニーズ
・新規事業やプロジェクトにおける要員ニーズ
いずれの場合も、要員が必要な原因や理由、それによる現場での影響、さらに必要な人数について確認します。
そのほか、不足を埋めるために必要な人材像がどのようなのかも提示してもらうと良いでしょう。
過去の要員計画・実績と比較する
過去の採用活動について分析しておくのも、重要なポイントです。
過去数年間分の要員計画と、その実績を比較しましょう。
計画と実績にギャップがある場合には、それもきちんと確認し、分析をする必要があります。
要員計画と、実際に採用をし、計画通りに割り当てられた数値を比較するためには、以下のような形で要員比率を計算します。
「部署ごとの要員実績」÷「要員計画で設定した人数」=「要員比率」
このように過去の分析をして、成功事例や失敗事例を参考にしましょう。
またこのような比較は、計画が行き詰まったときにも有効です。
「計画通りに採用するのが難しい」と感じたら、要員計画と要員実績を比較し、生じるギャップを想定しましょう。
要員計画を安易に変更しない
計画をいざ実行しようと考えたとき、あるいは計画をもとに進めているとき、その通りに実現するのが難しい場合もあります。
そういった状況に陥ったとしても、安易に要員計画を変更しないようにしましょう。
要員計画は、自社の事業計画や経営戦略をふまえて、それらを達成するために策定したものです。
そのため、要員計画を変更したとしても根本的な課題の解決にはつながりません。
前項でも触れたように、計画の遂行が難しいようであれば、まず要員計画と実績の差を確認、分析しましょう。
たとえばその中で、「要員が足りない」ことが結果として出たのであれば、要員計画を変更するのではなく、補充計画を取り入れます。
再度「現状把握」を試みたうえで、有効な方法を模索するのがポイントです。
まとめ
事業計画や経営戦略を遂行するためには、「量」「質」ともに、自社にとって最適な採用人数を把握する必要があります。
それを考えるうえで有効なのが、「要員計画」です。
要員計画は、採用人数や必要な人材像を設定するのに効果的な計画です。
自社の現状把握とともに、短期的、中・長期的なニーズを理解し、それらをもとに必要な人数を決定していきます。
人数の算出には、「トップダウン方式」「ボトムアップ方式」の2種類の手法があり、状況に応じて両者を活用するのがポイントです。
自社の採用課題の解決や、企業の成長を目指すためにも、要員計画を活かして採用人数を決定しましょう。