ティール組織とは?
企業にとって組織開発は重要な課題の1つといわれています。
さまざまな組織論がある中で、近年注目を集めているのが「ティール組織」です。
ティール組織とは、社長やリーダーなどがマイクロマネジメント(過干渉な業務管理)を行わずとも、企業の目的を達成するために進化を続ける組織のことを指します。
細かな指示を受けなくても、組織を構成するメンバー一人ひとりがルールや仕組みを正しく理解し、独自に工夫をしながら意思決定をするというものです。
5段階ある組織モデルの1つ
ティール組織は、5段階ある組織モデルの1つです。
長年組織変革プロジェクトに携わってきた、フレデリック・ラルー氏が提唱し、ビジネス界に大きな影響を与えています。
ラルー氏は、ケン・ウィルバーのインテグラル理論における「意識のスペクトラム」にもとづき、組織を5段階にわけました。
それぞれ色の名前がつけられ、レッド、アンバー、オレンジ、グリーン、そしてティールの5段階となっています。
特徴は、ティール組織がほかの4段階を内包しているということです。
ティール(進化型)
組織が進化していく中で、最上位であると位置づけられているのが、このティール組織です。
まず組織は、社長や株主など直接的に実権を握る人だけのものではなく、組織に関わっているすべての人のものである、ととらえています。
その組織の目的を達成していくために、組織に関わるすべての人が共鳴しながら行動をするという、非常に能動的なものです。
そのため、ティール組織にはリーダーなどの上役が存在しません。
もちろん上司や部下といった概念もなく、組織を構成する全員が信頼にもとづいて、目的達成のために組織を運営していくのです。
こういった性質から、ティール組織は「生命体」とたとえられることがあります。
組織が進化を遂げていく中で、必要なものを組み込みながら誕生したものが、ティール組織というわけです。
グリーン(多元型)
ティールの前段階はグリーンです。
このグリーンの特徴は、組織を構成する社員がそれぞれの個性を表現しやすく、主体性を発揮できるということがあげられます。
組織の目的を達成することだけではなく、組織に関わっている一人ひとりに焦点を当てて、その多様性を尊重するものです。
しかし、この進化の段階では、まだ多少の問題があります。
それは社長の権力の影響する範囲が明確になっていないため、組織の構成員間での合意形成に時間を要してしまうことです。
また、結果として合意形成ができなかった場合には、社長が意思決定権をもつという制約があります。
このような性質があるからグリーン組織は「家族」と比喩されるのでしょう。
上下関係はまだあるものの、1つ前のオレンジ組織よりも、風通しが良い組織です。
オレンジ(達成型)
進化段階の、ちょうど中央に位置するオレンジ組織は「機械」とたとえられます。
ピラミッド型の階層構造による、社長と部下といった上下関係がありながらも、成果を出した構成員は出世できるという組織です。
そのため、階層構造の下に属していた人が能力を発揮することにより、組織改革を起こしやすくなっています。
しかしながら、成果に対する数値管理は徹底的にされているため、構成員は常に競争を強いられます。
結果として機械のごとく働き続けることにつながってしまい、徐々に人間らしさを失っていく事態にもなりかねません。
現代における企業マネジメントは、その多くがこのオレンジ組織に属していると考えて良いでしょう。
この問題を根本から解決するためには、働き方改革が必要です。
アンバー(順応型)
オレンジの前の段階は、アンバー組織と呼ばれます。
階層構造にもとづく厳格な上下関係があり、それによって情報の管理や指示が行われる組織です。
役割が明確になっているため、リーダーなど特定の個人への依存を減少させることができ、多人数の統率が可能になります。
アンバー組織はその性質から、「軍隊」という言葉にたとえられます。
社員は組織を安定して継続させることを目的に行動しますが、状況変化に対する柔軟な対応はできません。
組織を維持するために環境の変化を望まず、それぞれが競争して進化することよりも、階層構造の継続を優先しようとします。
進化の最初の段階であるレッド組織よりも、長期的な目線をもっているともいえますが、停滞による大きな課題が残る組織といえるでしょう。
レッド(衝動型)
レッドは組織が進化していく過程で、一番初期の段階です。
「オオカミの群れ」と比喩されるのは、トップである社長が支配的にマネジメントをするという性質からでしょう。
レッド組織の構成員は、トップに君臨する者の力に従属し、安心を得ているのです。
この組織は、「社会をどのように生き抜いていくか」という非常に短期的な目標による目線で動いています。
特定の個人の力のみに大きく依存していることから、再現性に乏しい組織形態といって良いでしょう。
予期せぬことが起き、トップが倒れてしまった場合、組織が丸ごと崩壊する可能性もあり、大変危うい組織です。
レッド組織から進化していくためには、まずトップ自身が問題点に気づいて、改革を起こしていく必要があります。
日本でティール組織への注目が集まっている理由
これまでの日本は家父長制で、一家の大黒柱として主に父親が家を守り、長子がそれを受け継いでいくという権威主義的な構造で成長してきました。
こうした思想は日本人の中に遺伝子レベルで染みついており、企業の組織としても多いのは上下関係があるオレンジ組織です。
しかし、深刻な少子高齢化による人手不足のために、この長年続いてきた構造は壊れつつあります。
日本でティール組織への注目が集まるようになったのは、「このままでは日本経済が立ち行かなくなる」という不安を抱いた人々に受け入れられたからでしょう。
社会を生き抜いていく中で、個人が安定した生活を送るためには、1つの共同体として群れる必要があります。
時代の変化に適応できる、新たな共同体として、ティール組織に熱視線が送られるようになったのです。
ティール組織を構成する3つの要素
ティール組織のもっとも大きな特徴は、組織を1つの「生命体」としてとらえていることです。
組織の目的を達成するためには、組織に関わる人全員で共鳴しながら行動をする必要があるでしょう。
そのような組織体制を実現するうえで欠かせない構成要素として、セルフマネジメント(自主経営)、ホールネス(全体性)、エボリューショナリーパーパス(存在目的・進化する目的)の3つがあります。
聞き慣れない言葉かもしれませんが、一体これらがどのような役割を果たすのか解説していきます。
セルフマネジメント(自主経営)
まず1つ目の要素として「セルフマネジメント(自主経営)」があります。
これは、社員が上からの指示を待つのではなく、自立し能動的に働く組織のあり方のことです。
セルフマネジメントを達成するためには、社員に権限をもたせることが必要になります。
ティール組織では「助言プロセス」と呼ばれる仕組みが、これを可能にしています。
専門家や、意思決定の影響範囲内にいる人の両方からアドバイスを受ければ、組織の構成員は誰もが意思決定できるというものです。
ただし、周囲からの言葉はあくまでもアドバイスであり、最終的な判断は当人が下します。
そうすることで、周囲も間違った判断によって支障がないよう真剣にアドバイスをしますし、当人も熟考して、自己責任で意思決定をするようになるのです。
ホールネス(全体性)
「ホールネス(全体性)」とは、心理学の世界で使われている言葉です。
「ありのままの自分で存在できる状態」ということを意味しています。
従来型の組織において個人が受け入れられるためには、自分のありのままの姿ではなく、周囲の期待に応じて役割を演じる必要がありました。
何よりも評価されることを第一としていたために、本来の自分の能力や個性を発揮することが難しい側面もあったのです。
ホールネスはGoogleが社内で実証し、その結果を発表したことでも大きな話題となりました。
「心理的安全性の確保」に通じる観点で、組織の中で自分の意見を安心して、誰にでも発信できる状態です。
自分の発言が誰からも拒絶されないと確信することで、組織の構成員は目的を実現するための行動を起こせます。
エボリューショナリーパーパス(存在目的・進化する目的)
ティール組織を構成する3つ目の要素は「エボリューショナリーパーパス(存在目的・進化する目的)」です。
ラルー氏の書籍から紹介すると、パタゴニアという企業の存在目的は「ビジネスを活用して環境危機の解決策を実施すること」とあります。
このように書くと、「従来型組織における経営理念と似ている」と感じる人も多いでしょう。
しかし、ティール組織は生命体として機能するものであり、その存在目的も常に進化し続けていかなくてはなりません。
組織が大きくなるにつれ、創業者が、会社を興したときにもっていた目的のままで運営していくことは難しくなります。
そこで勘の良いトップは、また新たな目的を見つけ、次のステージへ移行させることができるのです。
ティール組織についての注意点
ここまで解説してきたように、ティール組織は5段階に進化していく組織モデルの1つです。
しかし、決して良いことばかりというわけではありません。
まだまだオレンジ組織が多い日本において、新たにティール組織を導入するには、いくつか注意点があります。
ラルー氏の書籍が翻訳され、日本で出版されたのは2018年のことです。
そこからまだ数年しか経過していません。
成功したモデルが少ない新しい組織であること、今までの日本にはなかった形態であることが、気をつけるべき要因です。
マネジメントが機能しにくい
まず第一に、マネジメントが機能しにくい点をあげられます。
ティール組織では、上司と部下というような明確な指示系統が存在していません。
組織を構成する社員一人ひとりにプロジェクトの進行や進捗管理を任せているため、今どのような状況にあるのかを管理することが難しい場合もあります。
そのため、組織が社員に対してどのようなサポートをすれば良いのかという判断が遅れ、問題が発生するかもしれません。
こういった事態を完全に回避することは難しいです。
こまめにコミュニケーションを取り、疑問が出てきた際には、その都度全員で会議を開くなどの対策が必要です。
社員が意見を出しやすい風通しの良い組織であるならば、マネジメントのしづらさも大きな問題とはなりにくいでしょう。
リスク管理が重要
2つ目に、従来型組織と比べて、リスク管理が非常に重要であることも忘れてはいけません。
ティール組織は上からの指示というものがないため、プロジェクトに属する社員の話し合いによって、業務が進行していきます。
そのため企業全体としてあまり収益性の高くない案件であっても、社員にとって魅力的だったり、興味を惹かれるものだったりする場合には、必要以上にリソースが割かれてしまう事態になるのです。
これを回避するためには、プロジェクトの進捗管理が大きな効果を発揮します。
最初に各工程にかけるべき人数と時間を明確に割り出しておき、全員が定期的にその進捗を確認し合うことで、遅れや無駄などの問題点に気づくことができるでしょう。
メンバーの自主性が不可欠
3つ目は、従来型組織からティール組織への進化を成功させるには、組織を構成している社員の自主性が不可欠な点です。
社長や上司などからの指示系統がないため、一人ひとりが組織の目的のため、能動的に業務へ取り組む必要があります。
いわゆる指示待ち人間が多いようでは、ティール組織を実現することは難しいでしょう。
社員それぞれがアイデアを出しやすい環境にすること、また自主的に動ける人材を育てることが大切です。
ティール組織において、組織の目的は、自分自身の目的そのものでもあります。
目的達成のために、まずは社員一人ひとりが自分ごととして課題に取り組み、アイデアを持ち寄れるような、風通しの良い職場環境を構築していくことが重要であるといえるでしょう。
ティール組織がもっとも優れているわけではない
組織が進化していく5段階のうち、最上位に位置するのがティール組織です。
ただ、何も前の段階よりも、すべてにおいて優れているわけではありません。
進化の過程では、その裏で捨ててきた機能が必ずあります。
このティール組織では、まず明確な指示系統がその退化した機能にあたるでしょう。
階層構造をなくしたために起こる弊害ともいえます。
自主的に動ける人材が育っていないにもかかわらず、無理矢理ティール組織を導入しようとしてもうまくいきません。
たとえば、オレンジからいきなりティールを目指そうとすると、組織の崩壊を招いてしまいます。
組織内の環境や構成する社員の成長度合いに合わせて、一歩ずつ適切な進化を遂げていくことが何よりも重要です。
ティール組織になるための明確な方法はない
ティール組織という新しい概念が日本で話題になったのは2018年のことです。
従来型組織と大きく異なるこの組織は、認知されるようになってからまだ何年も経っていません。
そのため、ここ数年で成功したと確実にいえるモデル企業は非常に少なく、また何もティール組織を目指して成功したのではないことにも留意する必要があります。
あくまでも自分たちの組織において、理想的な形態を目指し成長していった結果、ティール組織としてカテゴライズされたというだけの話です。
ティール組織を実現できているといわれる企業でも、それぞれに慣習や企業文化は異なります。
こうすれば必ずティール組織になれる明確な方法はなく、企業に合った組織作りをしなければならないのです。
まとめ
ここ数年のあいだに、日本でも大きな話題となっている「ティール組織」について解説してきました。
階層構造や指示系統のあるオレンジ組織が多い日本では、まだまだ認知度が低く、成功事例はそう多くありません。
しかし、高齢化社会の訪れによって従来型の組織が崩れようとしている今、時代の流れに合った組織形態を目指そうとしている企業であれば、すでに実践しているところもあるでしょう。
組織の変遷や構成する要素を確実に理解し、社員の成長に応じて進化していくことが大切です。